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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

」

「これまで通りではいけないのか。」

「いけないこともありますまいが、鄭重の上にも鄭重になさりたいのが、せめて子としての……」

「樊遅!」

と、孔子の声が少し高くなった。

「お前にも、まだ礼のこころはよくわかっていないようじゃな。」

樊遅は思わず御者台からふりかえって、ちらりと孔子の顔を見た。孔子の顔には、別に変ったところは見られなかったが、その声には、ますます力がこもって来た。

「礼は簡に失してもならないが、また過ぎてもならない。9過ぎたるはなお及ばざるがごとしじゃ。人間にはそれぞれに分というものがあるが、その分を上下しないところに、礼の正しい相がある。分を越えて親を祭るのは、親の靈をして非礼を享けしめることになるのじゃ。のみならず、大丈夫の非礼はやがて天下を紊るもとになる。親の靈をして天下を紊るような非礼を享けしめて、何が孝行じゃ。」

樊遅には、もううしろを振りかえる勇気がなかった。彼は、正面を向いたきり、石のように固くなって、殆ど機械的に手綱をさばいていた。

彼が孔子を送り届けたあと、すぐその足で孟懿子を訪ねたのはいうまでもない。そして、もし孟懿子が、自己の権勢を誇示するためでなく、真に死者の霊に奉仕したい一心から、祭典を行おうとしていたのだったら、樊遅のこの訪問は、彼にとって、すばらしい意義をもつことに