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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
「お怪我はなかったでしょうな?」
「些っとも。あなたはお目が腫れましたよ」
「眼鏡をやられました」
「眼鏡をかけていると、何うも狙われます。僕は電車から下りる時、外したんです」
と大学生も堀尾君に劣らぬ名人らしかった。
堀尾君は喧嘩の騒ぎで忘れていたが、その晩兄さんの玉男君が着く筈だった。両親は明日になる。式を明後日の午後三時に挙げて、晩は披露、次の朝一同帰郷して、更に村へ披露という予定になっていた。
「これは占まった」
と思いながら家の敷居を跨ぐと、果して兄さんの下駄があった。婆やが出迎えて、
「小旦那さま。中旦那さまがお見えになりました」
と言った。今までは旦那さまだったが、小旦那さまになっていた。兄貴が中旦那、親父が大旦那だ。
「よし/\」
と堀尾君は頷いた。
「まあ! 小旦那さま」
と婆やは目に気がついた。
「正晴、来たよ」
と玉男君は茶の間の火鉢のところに坐っていた。
「兄さん、よくお出下さいました」
と堀尾君は鄭重にお辞儀をした。兄といっても間に姉が三人あるから年が大分違う。
「晩かったね」
「火事があって、その方へ廻されたものですから」
「おや/\、何うしたんだい? その顔は」