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てんき

転機

伊藤 野枝

「文明批判 第一巻第一号、第二号」1918(大正7)年1月、2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,656 字 · 67 页

青空文庫

「Sという人ですが――」

「Sさん、ははあ、どうも私には分りませんが――」

その人は少し考えてからいった。

「家が分らないと、行けない処ですからな。何しろその、皆ひとかたまりになっていませんから――」

意外な事を聞いて当惑した。しかしとにかく、人家のある所まででも、行くだけ行ってみたい。

「まだ、余程ありましょうか?」

「さよう、大分ありますな。」

ちょうどその時私達の後から来かかった男に、その人はいきなり声をかけた。

「この方達が谷中へお出でなさるそうだがお前さんは知りませんか。」

その男はやはり、今までと同じように妙な顔付きをして、私達を見た後にいった。

「谷中へは、誰を尋ねてお出でなさるんです?」

「Sという人ですが――」

「ああ、そうですか、Sなら知っております。私も、すぐ傍を通ってゆきますから、ご案内しましょう。」

前の男にお礼をいって、私達は、その男と一緒になって歩き出した。男はガッシリした体に、細かい茶縞木綿の筒袖袢纏をきて、股引わらじがけという身軽な姿で、先にたって遠慮なく急ぎながら、折々振り返っては話しかける。

「谷中へは、何御用でお出でです?」