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てつのしょじょ
鉄の処女
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 42 页
伯爵は頻りに他殺説を主張して、ある秘密をさえ夫人の前に語ったのだった。
それによると、二三ヶ月前から伯爵夫人の身辺に影のように附き纏っていた男があったのだそうだ。彼女が近頃健康を害していたのも、実はそれが原因で、彼女はその男を非常に怖れていたという。
「例のサーカスの女の亭主じゃないんですか?」
S夫人は伯爵夫人の依頼から咄嗟に想像して訊いてみた。伯爵はただ唇にちょっと寂しい笑いを浮べたきり、それには答えないで、費用はいくらでも出すから、是非犯人を捜し出してもらいたいと、繰り返し繰り返し頼むのだった。
伯爵が帰ると夫人は直ぐ外出の仕度をし、助手の私を連れて、念のためもう一度浅草のサーカスを調べに行くことになった。伯爵の口ぶりから察すると、どうやらその亭主が怪しいように思われる。S夫人も最初の考えを翻えして、あの女よりも亭主を探す積りなのではあるまいか。いずれにしても女か男か片一方を発見すれば、それによって事件の糸口がたぐり出せるかも知れない。
仲店の雑沓の中を、夫人は黙々として考えながら歩いた。私も無言で彼女に遅れまいと足早について行った。
二人はいきなり楽屋口へ行って、名刺を出し団長に面会を求めた。