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てつのしょじょ
鉄の処女
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 42 页
私が智恵子に会いさえしなければ、何事もなかったんです、イヤ智恵子ばかりじゃない。弟にも会わなければよかったのです。私の生涯はもうとうの昔に終ってしまっていたはずなのですから、未練にも生きているばかりに飛んだ罪をつくってしまいました。ジョホールの土になる気でさえあったら、智恵子を死ぬほど苦しめるような事もなかったでしょうし、弟をあんな悪者につくり上げずともすんだのでしょう。一旦死んだ人間が生きているという事が抑も間違いの原因だったのです」
男は語り終ると悄然として首を垂れた。その顔には苦悶の表情がありありとあらわれていた。
S夫人はいつの間に取ってあったものか、ハンド・バックから戸籍謄本を出して、彼に見せながら云った。
「では、この死亡となっているのが貴方なのですか?」
「はい。明治十七年生で、明治四十一年に死亡したことになっているはずです」
それだけ聞くと私達は彼に別れた。
ともかく一応事務所へ帰ろうと思って、二人は足早やに電車道まで出て来ると、そこに一人の運転手風の男が、待ち受けてでもいたように、つかつかと前に来て帽子を脱いで頭を下げた。私はその男の顔に見覚えはなかったが、夫人とは知り合いだと見えて、