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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
227 怪盗系図
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页
天井から床下まで見たが、影も形もねえ」
八五郎は言葉せわしく説明するのです。
「お勝手口と椽側は開いてなかったのか」
「あの通り、念入りに締めたまんまで、戸のすき間からでもなきゃ出るはずはねえ」
「フーム」
平次も腕を組みました。六畳の居間は、いくらか荒らしておりますが、あとは八五郎と五人の下っ引が踏み荒したほかは、何んの変りもなく、行燈の灯が、静かに瞬いているのも、妙に物淋しく凄まじい風情です。
「親分、あっしの足が少し遅かったんだ。せっかく頼まれながら、姐さんをさらわれちゃ、首でも縊ってお詫びをするほかはねエ」
八五郎の萎れようというものはありません。
二人は何時の間にやら、お勝手に入っておりました。竈の上に、ダラリと下った引窓の綱。
「丁度宜い首縊り綱だぜ、八」
平次は日ごろにもない人の悪い冗談をいいながら、その綱を辿って閉めたままになっている引窓を見上げるのでした。
「そいつで首を吊るんですか、親分」
怨めしそうに見上げる八五郎の顔を、平次は擽ぐったく見やりながら、綱を引いてサッと窓を開けました。真っ黒な夜の空の断片がその窓から無気味に中を覗いております。