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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

227 怪盗系図

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页

青空文庫

何遍か危ない目にも逢わせた女房ですが、急にいなくなると妙に身辺が空洞になったような心持です。

「親分」

八五郎は少し果たし眼になって、その側ににじり寄りました。

「――」

平次はそれに応えず、深沈として考え込んでおります。

「親分」

「うるせえな」

「姐さんはいったい何処へつれて行かれたでしょう」

「――」

「せめて見当でも教えて下さいよ。親分に考え込まれると、あっしは心細くてかなわねえ」

八五郎は平次のひざの側まで寄って、その手を空中にモタモタさせるのでした。親分の身体をこう揺ぶって見たかったのでしょう。

「それが解れば苦労はしないよ――だがな、八」

「ヘエ」

「お前は引窓から屋根の上に出るのに、余っ程骨を折ったか」

「やってみて下さいよ。へっついの上に立って、引窓から漸く首が出るだけで、屋根に両手を掛けて這い出すのは、並大抵の芸当じゃありませんぜ」

「人一人抱えて、あの窓から出られると思うか」

「とても」

八五郎は大きな掌を、以っての外といったように振って見せるのでした。

「ところが曲者は、確かにあの窓からお静をつれ出しているんだ、――縛ってはあったにしても、羽搏きもさせずに屋根の上へ、人一人持出すのは、どんな野郎の仕業だと思う」