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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

227 怪盗系図

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页

青空文庫

「八、これは矢っ張り行ってやらなきゃなるまいな」

「ヘエ?」

平次が何をいおうとしているのか、八五郎にはのみ込み兼ねた様子です。

「お栄だよ――あんなにいって来たのに、放って置くという術はないな、八」

「それですよ、親分」

八五郎は乗出します。若くて美しい女の急に赴くためには、どんな犠牲でも忍びそうな面構えです。

「何が何んでも、一応は行ってやらなきゃ可哀想だ。出かけようか八」

「ここはどうします、親分」

「金太を一人残して置きゃいいだろう。たんすにはもう何んにもないよ」

「そんなものですかね」

八五郎は一寸ちゅうちょしましたが、親分の平次の意思に引きまわされることに馴れているせいか、たいした異もたてずに、近江屋を見捨てました。行く先は東西の両国、水に近くて、人間一人を楽々と隠せる家というと、この辺にはそんな家はあまりにも多過ぎます。

近江屋に取り残された下っ引の金太は、生温かいのに火のない火鉢を抱え込んで、怠屈と不気味さを紛らすために、煙草ばかり吸っておりました。

四十を少し越した世帯ずれのした男、蟲食い頭の金壺眼で、昼は内職の古道具の店に坐っている男――といったら、その人柄が凡そ見当がつくことでしょう。