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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

口真似じゃあねえが、そういう理屈じゃあありませんか」

「それを云うな、すぐそういう品のないことを云うから、駕舁きなどと蔑まれるんだ」

吾助はそう云いながら財布を出し、その中から幾許かの小粒銀を取ってそこへ置いた。

「一応のところこれは骨折り賃だ、こういう事は欲得ではないて、このお方が世に出たときは、それはまたお屋敷からそれ相当の、しかしそんな卑しい考えを持つようでは、到底この、出世は出来ないものだ、そういうことにして、ではこのお方は儂の家へお伴れ申すから」

取引を済ませて、吾助はかの証拠品を恭しく包み直し、かの若者を案内して、己れの住居へと去っていった。

銀太金太の両名が、どの範囲で笑ったか。これに就いては、演者は語ることをやめる。この卑劣なるふざけ方には人道の上から云って組したくはない。かれらは笑いに笑った。金太はそれ程でもなかったが、銀太はやがて脾腹が痛くなり、それでも笑いが停止しないために、畳を掻きったり、竹行李に抱きついたりした。

「ひーひーひー、助けて呉れ」

「う、それもそうだが」

金太は口も重いがまた思慮にも重々しいところがあった。

「大丈夫かな、あのうす馬鹿、いずれはぼろを出すだろうが、すぐ泥を吐くようなことはあるめえか」