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ながやてんいちぼう
長屋天一坊
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页
「うん、……慥かに、柳原堤じゃあ、乞食の、うす馬鹿だったものだ」
「それが十二万四千石松平伊賀様の御落胤だって、そんな箆棒なすっ頓狂な、ううう、そのへちゃむくれた話があるもんか、ぺてんにひっ掛ったにちげえねえ、それだけは憚りながらこの銀太が証人だ、いまにざまあ見やがれだ、なあ金太」
「うん、……いまにきっと、そんなこったろう、そうでねえにしたって、まあ、そんなこったろう」
然し次の月になると、吾助はまた羽折袴で伊賀守邸へ出頭し、御手当として金三十枚を下げ渡されて来た。御親子対面までは、月々金三十枚ずつ扶持されるというのである。……吾助は此の度も長屋代表を呼び集め、その旨を告げて、六十日期限の取払いを確認させた。事ここに及んでは、最早、銀太としても蔭口をきく勇気はなかった。また長屋の住人共は今は両名を多少は恨んだ、中には浮薄な人間もあったろう、二人に会うと妙な笑い方をして、
「銀太さん金太さん、いい者をみつけて来て呉れたね、お蔭でおれたちも結構なことになった、有難うよ」
などという嬉しがらせめいたことを云うのである。両名の者は大くさりと云いたい。
「世の中は逆さまだってえことを云うが、こんなばかな事があるだろうか」