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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

「あたいは、お貰いをしてえるほうがよかった、柳原の土堤は、あたいを、こんなに、押っぺさなかった、土堤にいたときは、こんなに草臥れなかった、ごやくいんなんて、あたいは、まっぴやだ」

こんな独り言を云うときもある。もしかかるときおわきが側にいると、彼女は色を作して喚きたてる。言葉は勿論ごく上品であって、ときに語彙の狂いはあるが、然し武家の風格を崩さないことは云うまでもない。

「さような御意は、聞く耳もありましょうぞえ、若殿様には御健勝にましませば、柳原の土堤などという御上意は誰しも存ぜぬこと、壁に耳ある世の習いとて、おひひひひひ、御安楽に思し召されませられいなあ」

おひひひというのは笑い声であるがそのときは、彼女は必ずなんらかの行動に出る。その行動に就いては講演はできないけれども、御落胤はとかく異な声をあげ、時にじたばたすることなどある点だけは、触れて置いてもよいと思う。

「あのねえ、あの、あのね、あたいは、ううふふふふ、くちュぐるのやアだよ、あっ、うっ、あのあの、……たアんま」どたばたと音がするわけだろう、「あたいたアんま、あっ、ねえったや、おばちゃんッ、もうごめ、もうごめんだよ」