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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

一人娘だから婿を貰うわけだが、そして実際これまでに五人も婿を貰ったのであるが、五人とも半年そこそこでみな逃亡し、出奔し、三年このかたは独身でいる。――眼をくぼませて後家の男は逃げる、こういう卑劣なる川柳点があるというが、おわきは後家ではなかったが、五人の婿はそれぞれどこかしらをくぼませ、命からがら逃げだしたと、長屋の住人共は伝えておる。

「おらあ知ってるんだ、おれと金太はな、すっかり知ってるんだ」

親の代から長屋で成長し、現在では共同して辻駕籠を舁いでいる銀太と金太という二人の若者は、中んずく斯様に公言しておった。

「あすこの婿は、五人ともおれたちの所へ、毎晩夜食を食いに来たもんだ、なあ金太」

「うん、……来たもんだ」口の重い金太は考えながらゆっくり頷く。

「やって来たもんだ、なにしろ、おれたちは夜中に帰って、それから夜食を喰べて、……寝るから、……そのときやって来たもんだった、……五人ともだった、そして五人とも泣いたもんだった、いつもかつえてやがる、二番めの倉造ってえ婿なんぞは、毎晩おめえ丼で五杯も喰べやがった、ぽろぽろ涙をこぼしながらよ、なあ金太」

「うん、……ぽろぽろとよ、涙をこぼし、また飯もこぼしたもんだ、……飯をこぼすと拾って喰べ、……それくらいかつえていたもんだ」