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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

と云うのが、ある朝のことなんだが、そして社長室で例の理解しがたい音声の聞えたあとのことなんだが。……そうだ、薄い絹かなんぞをきゅっと引裂くような声が三度ばかり聞えて、それから十分ばかし経った頃なんだったろう、とつぜんその部屋で妻君の叫び声がおこった。

「いやなら出てゆきなさい、出てゆきなさい、さあ出てゆきなさい」

こういう悲鳴のような叫びなんだ。

「ここはあての家や、あるもんもみんなあての銭で買うたもんや、あんたのもんはなに一つあれへん、ぞうさもないこっちゃ出ていきなはれ、出なはれえな、出てかんかいな」

社長の声は殆んど聞えない、なにか云ってることは云ってるらしいんだ。ぼそぼそ声はしているんだがなにを云ってるかは聞えなかった。妻君は激烈なヒステリイをおこしたとみえ、むしゃぶりついてひっ掻いたらしい物音がした。

「くやしいーっ、ああくやし、文化的事業のなんぞのとひとをはめやがって、あんな汚ならしい雑誌がなんや、なにがぼろい儲けや、うまいことぬかしくさって、初めからあての貯金ちょろまかす気いやったんやろ、出てゆけ、そしてあのぬすっと阿魔と寝くされえ」

「わいが悪いて、このとおりやこらえてくれえ、このとおりや」