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ようきなきゃく

陽気な客

山本 周五郎

「苦楽」苦楽社、1949(昭和24)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,086 字 · 46 页

青空文庫

こんどは社長の声が聞えて来たんだ、「――あの女とはもう逢わん、こらえてくれ、このとおりや」

おれは椅子から立って、足音を忍ばせて階段をおりた。すると階段のいちばん下の段に仲井主筆が腰かけていて、こっちへ振返ってにやっと笑い、それから片手に小さな風呂敷包を抱えたまま立上がって、

「社長が聞いたら帰ったと云ってくれ」

こう脇のほうを見て云った。階段のすぐ脇のところに奥へ通ずる板敷がある。そこに花ちゃんと云う女中と喫茶部の女給のそえ子が立っていた。かれらもそこで二階の騒ぎを聞いていたものなんだろう、仲井はおれのほうへ「出よう」と云って、下駄をつっかけてさっさと外へ出ていった。痩せた肩の一方をつきあげ、古びた袴の裾をひきずるような恰好で、さっと扉をあけた姿は今でもおれの眼には比較的あざやかに残っている。

――主筆はおれをすぐ近くの居酒屋のような家へ伴れこんだ。彼はなじみとみえて、まだ掃除もしてない時刻だったが、髪をつくねた色の黒い中年の女が出て来て酒のしたくをしてくれた。

「君とはいっぺん悠っくり飲もうと思っていたんだ、今日はひとつ楽しくやろう」

「しかし社のほうはいいんですか」