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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
……」
「さあ。」
「へい、いえ、その。」
「さあ、まあ、どうなすったんでございますねえ。」
凄い。じっと見た目が袂を引いたより力が強い。見す見す魔界と知りながら、年増の手には是非もない。馬は、ふらふらとなって切戸口から引入れられると、もう奥庭で、階段のついた高縁の、そこが書院で、向った襖がするすると左右へ開くと、下げ髪にして裲襠を捌いた、年三十ばかりの奥方らしいのに、腰元大勢、ずらりとついて、
「待ちかねました。よう、見えたの。」
と莞爾。
その裲襠、帯、小袖の綾、錦。腰元の装の、藤、つつじ、あやめと咲きかさなった中に、きらきらと玉虫の、金高蒔絵の膳椀が透いて、緞子のが大揚羽の蝶のように対に並んだ。
「草鞋をおぬぎになるより、さきへ一風呂。」
「さっぱりと、おしめしあそばせ。」
腰元のもろ声を聞くと、頭から、風呂桶を引被せられたように動顛して、傍についた年増を突飛ばすが疾いか――入る時は魂が宙に浮いて、こんなものは知らなかった――池にかかった石だたみ、目金橋へ飛上る拍子に、すってんころりと、とんぼう返り、むく起きの頭を投飛ばされたように、木戸口から駆出すと、