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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
二個の亡者は、奈落へ落込んだ覚悟で居る。それも良心の苛責ゆえでありましょうのに、あたりの七宝荘厳なのは、どうも変だ、といよいよ魔法にかかって、とろとろとしたと思う。
…………
「御加護たまわれ。」
かかる場所にて呼び奉るを、許させらるるよう、氏神を念じて起上った私は、薄掻巻を取って、引被せて、お冬さんを包んだのです。おさえた袖がわなわなと震えるのは、どうも踊るような自分の手で。――覚悟をすると、婦は耳も白澄むばかり、髪も、櫛も、中指も、しんとするほど静です。
「誰だ!」
どころじゃない。大きな天井に届く老婆の顔が、のしかかって、屏風越に、薄髭の頤でのぞいている……その凄さというものは。
もっとも、うとうととするうちに、もそりもそり裙で動いたものがある。鼠、いや、猫より大きい。しかも赤ッちゃけたものが、何か動く。紅いものといっては、お冬さんはちらりともつけていなかった。第一、身づくろいをするにしては、腰を上げ手を伸ばし、余りに人品が悪過ぎる。夢か、犬かと、思ったのが薄汚れた、赤袴です。赤袴の這身で忍んで、あらかじめ、お冬さんの衣桁にも掛けず嗜んで置いた、帯を掴み出していたのです。