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ゆきやなぎ
雪柳
泉 鏡花
「中央公論 第五十二年第十三號」1937(昭和12)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,054 字 · 90 页
一本松ではありません、何とかいう待合、同業の家だった。目の下が、軒並の棟を貫いて、この家の三階へ、切立てのように掛けた、非常口の木の階段だったのが分りました。いずれ、客の好奇心を嗾ろうといった誂えと見えます。確に寺の磴へ上ると思って、いつの間にか――これで庭下駄で昇った女に手を曳かれたのでは、霧に乗った以上でしょう。
ずり落ちる下界は、自動車が(ここへは通る)待っていました。傍に、家業がら余程奇を好んだと見えて、棕櫚の樹が鉢に突立ててある、その葉が獅子の頭毛のように見えて、私は、もう一度ぐらぐらと目が眩んだ、横雲黒く、有明に……
あけがた家に帰ってから、私は二月ばかり煩った。あとで、一本松、石磴の寺、その辺までは密と参りました。木戸をも閉めよ、貫木をも鎖せ、掛矢で飛込んでも逢いたい。心に焼くように、雪の家の空あたりが、血走る目で火の手になり、赤いまでに見えるけれども、炎を水にし氷にしても、お孝という、赤坂で一度間違いをした娘に顔が合わされません。
畜生でも構わない、逢えさえすれば……
心を削り、魂を切って、雌雄の――はじめは人の面のを、と思いました。