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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
」
とはいってみても、まともに働いて暮すことより知らぬ茂緒にとっては、目の前の今日を、どうしてしのぐかさえ見当がつかなかった。そこへゆくと、修造の方はてきぱきとことをはこぶ知恵が、つぎつぎと浮かんできた。
「茂ちゃんの着物、ちょっとの間かりようかな。」
それを着るとでもいうのかと思って、ぽかんとしていると、
「質に入れるんだよ。」
茂緒は不明を恥じながら、バスケットから着物を出し、腕時計もはずして添えると、修造は気軽にそれをもって出かけようとする。
「大家さんの質屋にいくんですか。」
「ああ。知らない質屋は、だめなんだよ。」
「でもいやですわ。しょっぱなから……」
「仕方がないさ。ちゃんと暮すためには食わずにいるわけに、ゆくまい。」
出かけたあと、がらんとした部屋の中で、茂緒は畳にしがみつくようにして泣いた。父や母や、妹たちのことが、甘やかな悔の中で思いだされ、涙はとめどがなかった。だが、修造が帰るころをみて、おさめてしまった。しかし、はれたまぶたは、かくしようがなかった。やがて修造は十円になったとホクホク顔で帰ってき、茂緒の顔には気づかないふりで、彼女にそれを渡しながらさそった。