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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
「知ってますよ。途中で会ったんですもの。でも、今日はあなたをさそいにきたの。」
扶佐子はどんどん上ってきて、
「ね、井村さんの奥さん、女たちだって遊びましょうよ。これから多枝さんをさそって、三人でいいとこへいきましょうね。私、原稿料が入ったのよ。大枚三円! おごるわ。」
そのうきうきとはずんだ調子はすっかり茂緒をとらえ、茂緒はいそいで帯をしめなおした。
「どうせね、みんなのゆくとこ、わかってんのよ。いきましょうよ。だってさ、今日井村さんとこで一ぱいやるからこいっていったからさ、せめて酒代でも作ろうと思って、急いで童話かいてA新聞へもってったのよ。学芸部長が出てきて、だめだっていったからさ、啖呵きってやったの、――なんですっ、大きな屋台骨して何さっ! て。そしたらとってくれたわよ。大枚三円!」
扶佐子は得意になり、大きな小鼻をふくらまして、げらげら笑い、
「だのに、すっぽかしてるじゃないの。いいわよ。むこうはピーにきまってるから、こっちは大ばんぶるまいで、みせびらかしてやるの。」
茂緒は干した掻巻をまたとりこんで、窓にも玄関にも鍵をかけた。かけながら、修造のことが気になり、