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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
森があって、わが家のごとく、人通りもなく静かで、井村さんだって勉強できるわ。別荘みたいじゃないの。」
「そうね。」
「貧乏したってさ、両方が一しょってことばかりじゃないから助けあえるわ。」
「そうね。そしたらわたしも寂しくなくていいんですけどね。修造さん、どういいますか。」
ところがおどろいたことに、酔ったNと井村は、いっそう意気投合してしまって、明日にもこの二階家のとなりへ越してきて、一しょに新築のできるのを待とうというのだ。二階家は四軒長屋で、Nたちが越してくるまでは全部空家だった。酔ったいきおいで、男どもはすぐとなりの大家にかけあった。修造の勤め先は、彼に内職を与えてくれているKの通信社だった。そして翌日はとなりの貸家で飽きもせず豚コマのすき焼だった。かんたんに越せるものだと、茂緒は感心した。荷物は男たちが大八車で一度にはこんだ。茂緒はうれしくてならなかった。気さくな扶佐子がそばにいることは、何となくたのもしかったのだ。いつか茂緒が、すき腹をかかえて仕方なく寝ていたとき、扶佐子がいつになく、しょんぼりとしてやってきたことがある。
「井村さんは?」
「金策にいったんですけど。