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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
風あたりは、まっさきに茂緒の家である。
「Nさんは、どつらへお引っこすなさいますたか。」
老眼鏡を鼻にずらした家主はぶるぶるふるえている。修造はとぼけて、
「どうしたんですか。」
と、逆にきいた。
「どうもこうも、だまって越されちゃあ、困っちまいますね。」
同類だといわぬばかりのふきげんな口ぶりだった。修造もさるものらしく、
「困ると、ぼくにいわれても、これ、めいわくですがね。」
「ごぞんじだったんでしょう。」
「知ってましたよ、それは。荷作り手伝ったぐらいですから。しかし、まさか大家さんに無断だとは知らなかったですね。」
「ご冗談でしょう。――ところで、どつらですか、お引っこす先は。」
「さあ、まだ知らせてこないんでね。」
二カ月分の敷金を入れたきり、一年分も滞納していると家主はこぼし、しまいにはぺこぺこおじぎをして、「それでは、知らせがありますたら、一つよろしく。」と帰っていった。
翌日は、こんどは茂緒が家主の細君につかまった。H夫婦が子供づれできていて、大声にNたちのことを語りあい、笑っているところだった。玄関の女の声に、何気なく茂緒が出てゆくと、かぎ鼻の細君はすごい目をして、いきなり、