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かぜ
風
壺井 栄
「文芸」1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 38,702 字 · 78 页
額にも、頭にも、大きな大福のような瘤ができているのだ。聞かずとも事態は察しられた。茂緒は泣きながら、ぬれ手ぬぐいで患部をひやした。冷たい水はすぐぬるくなった。夜通しうなりつづけた修造も、朝になると少し痛みが去ったらしく、低い声でぽつりぽつりと話しだした。
「もう、大丈夫だよ。」
茂緒がだまってうなずくと、
「よかったよ。」
おどろいている茂緒に、
「むこうのまけだ。いたたッ! からだが、瀬戸物になったみたいだ。」
笑おうとして、彼は苦痛に顔をしかめながら、
「殺されると思った。」
「Tさんも、Eさんも?」
彼女は、修造と気のあった仲間の名をいった。彼はふっと目で笑い、
「奴さん、足が早いのさ。逃げたよ。」
その日対立した意見は堂々めぐりのまま夜になってしまった。気まずい空気のみなぎっている部屋へ、とつぜん、どやどやとなだれこんできたのが、Mを先頭にした黒連(黒色青年連盟)の若い男たちだった。それを見るとTやEは一目散に外へとんでいったのだという。それまでには、なんどか一しょに飯を食い、酒ものんだことのある若者たちは、みんな夜叉のようにいきり立ち、そこらの垣根の棒杭を引き倒して抜いてもってきたらしく、釘のついた四角な木切れや、太いステッキをもっていて、修造はいきなりその暴力にとりかこまれたのだという。