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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

岡本綺堂『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』。同一底本的分册已合并为一书。收入:飛騨の怪談、影、画工と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 页

青空文庫

これが最も忠一を驚かしたのであったが、冬子は単に気を失った丈のことで、身には別に負傷の痕も無かったので、手当の後に息を吹返した。

飛騨の山国の風雪の夕、この一軒家に於て稀有の悲劇を演じたる俳優の中で、僅に生残っているのは幸運の冬子一人に過ぎぬ。随って委しい事情は何人も知るに由ない。単に冬子の口供を基礎として、其余は好加減の想像を附加えるだけの事である。

で、諸人の説は先ず斯ういうことに一致した。虎ヶ窟に棲める※(「けものへん+操のつくり」、第4水準2-80-51)の眷族は、其数果して幾人であるか判らぬが、曩の日彼の市郎の為に其の女性の一人を亡ったのは事実である。其後彼等は警官に逐われて山深く逃げ籠ったが、食物は兎もあれ、女性の缺乏ということが彼等の間に一種の不足を感じたらしい。そこで彼等三人は此の大雪に乗じて里に降り、何処からか女を攫って行こうと試みた。之に魅まれたのが彼の冬子で、彼等は吉岡家へ忍び寄って窺う中に、便所へ通った冬子は手を洗うべく雨戸を明けたので、彼等は矢庭に飛び蒐って彼女を捉えた。猶其袂から手巾を取出して、声立てさせじと口に喰ませた。