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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
岡本綺堂『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』。同一底本的分册已合并为一书。收入:飛騨の怪談、影、画工と幽霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,271 字 · 263 页
市郎は殆ど夢中で駈寄った。消えかかる幾多の松明の火が一時にここへ集められた。其の光に照し出されたる屍体の有様は、身の毛も悚立つばかりに残酷なるものであった。男は前にも云う如く、身には一糸を附けざる赤裸で、致命傷は咽喉であろう、其疵口から滾々たる鮮血を噴いていた。更に驚くべきは、鋭利なる刃物を以て其の顔の皮を剥ぎ取ったことである。随って其の顔は判然せぬが、僅に灰色の髪の毛に因って、其の六十近い老人であることを確め得た。
「阿父さんだ。」と、市郎は屍体を抱いて叫んだ。七兵衛も声を揚げて泣いた。
この意外なる光景に胆を挫がれて、余の人々は唯動揺めくばかり、差当り何うするという分別も出なかった。が、流石は職業であるから、市郎は先ず其疵口を検査すると、疵は刃物でなく、鋭い牙と爪とて咬破り掻裂いたものらしい。彼は再び驚くと共に、敵は正しく※(「けものへん+操のつくり」、第4水準2-80-51)であることを悟った。
この時、あなたの山の方から幾箇の松明が狐火のように乱れて見えた。巡査の一隊は尋ね飽んで、今や山を降って来たのであろう。斯くと見るより此方の人々は口々に叫んだ。