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しゃべりすぎる

饒舌りすぎる

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 55 页

青空文庫

このあいだに幾たびか、十太夫は「引き太刀」という秘手をこころみる。十太夫自身のあみだした技で、この手にかなう者はないと定評がある。だが土田正三郎だけはその手にのらず、一度も打ちを取られたことがない。やがて十太夫は汗まみれになり、肩で息をしながら竹刀をおろす。

「これまでだ」と十太夫はどなる、「汗をながして来るから待っていてくれ」

十太夫が出てゆくと、安川大蔵が立って来て、土田が稽古着をぬぐのを助ける。面をとると、土田の顔にも汗の滲んでいるのがわかる。

「三度めの引き太刀は凄かったですね」と安川が云う、「てっきり一本と思いましたよ」

土田はなにも云わない。

「私にはどうしてもあの手が避けられません」と安川は云う、「ずいぶんくふうしてみるんですが、どうしてもだめですね」

「そう思いこんでるだけさ」と土田が静かに云う、「腕は五分と五分だよ」

「私がですか」

土田は黙って微笑し、安川の肩をそっと叩く、そこへ十太夫が、着替えた袴の紐をしめながら出て来て、さあ帰ろう、なんだまだ汗も拭かないのか、早くしろよとせきたてる、といったようなことが、月に二度か三度は必ずあった。