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しゃべりすぎる

饒舌りすぎる

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,957 字 · 55 页

青空文庫

眠ったのを慥かめると、安川にあとのことを頼んで、城をさがり、家へ帰った。

土田正三郎は一睡もしなかったが、帰宅すると風呂を焚かせて躯を洗い、平生どおり髪を直し髭を剃って、父と朝食をともにした。事情を訊かれたので、あらましのようすを話すと、父の正兵衛は登城を休めと云った。母も側から休むようにとすすめたが、彼は欠かせない御用があるからと断わり、時刻になると登城して、自分の役部屋へはいった。

「小野さまはいかがですか」と下役の者がすぐに訊いた、「もうよろしいのですか」

土田正三郎は単符と呼ぶ紙片へなにか書き、自分の印を捺してその下役に渡した。

「お蔵へいって、この記録を出して貰ってくれ」と土田は云った、「それから中林、昨日の書類はまだか」

「もうすぐです」とその中林が答えた。

「いそいでくれ」と土田は云った、「このごろ事務がはかどらないようだな、郡奉行からの期届けはまだか」

「まだまいりません」と他の下役が答えた、「催促いたしましょうか」

「まあよかろう」土田は机の上へ書類をひろげ、硯箱をあけて朱墨を磨りだした、「――郡奉行か」

下城の刻が近くなったとき、安川大蔵が役部屋へ来て、半刻ほどまえに十太夫を家まで送ったと告げた。