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こうすいしんし
香水紳士
大阪 圭吉
「少女の友」實業之日本社、1940(昭和15)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,752 字 · 16 页
が、やがてとり下すことが出来た。
紳士は、相変らず居睡っている。
と、この時、お祝いもののはいったその風呂敷包みを膝の上へ置きながら、ふと、クルミさんの頭の中へ、とてつもない考えがひらめいた。すると、前よりもはげしくクルミさんの手足はふるえ出した。が、その眼は、急にいきいきと輝き出した。
しばらくクルミさんは、どうしようかと迷っているようであったが、窓の向うに国府津の海が見えだすと、いきなりクルミさんは、制服のポケットの中へ手を突っ込んだ。そして、真紅のリボンのかかった、小さな美しい木箱をとり出した。
それは、信子さんへのお祝いに、こっそり買求めて来た、あの香水だった。
クルミさんは、ものに憑かれたような手つきで、ぶるぶる顫えながら、その美しいリボンをほどき、レッテルをはがして、木箱の蓋をあけると、中から、円い、可愛い香水の瓶をとり出し、その栓の封を切った。
クルミさんは、静かに前かがみになった。
栓を抜いた香水の瓶を、居睡っている紳士のほうへ、ワクワクふるえながら差出し、差出したかと思うと、素早く瓶の口を下へ向けて、紳士の洋服へ、惜しげもなくタラタラと中身を流しつくしてしまった。