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こうやひじり
高野聖
泉 鏡花
「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页
ご覧の通り杖も棄てました。)と我折れしみじみと頼んで額を上げるとざっという凄じい音で。
心持よほどの大蛇と思った、三尺、四尺、五尺四方、一丈余、だんだんと草の動くのが広がって、傍の渓へ一文字にさっと靡いた、果は峰も山も一斉に揺いだ、恐毛を震って立竦むと涼しさが身に染みて、気が付くと山颪よ。
この折から聞えはじめたのはどっという山彦に伝わる響、ちょうど山の奥に風が渦巻いてそこから吹起る穴があいたように感じられる。
何しろ山霊感応あったか、蛇は見えなくなり暑さも凌ぎよくなったので、気も勇み足も捗取ったが、ほどなく急に風が冷たくなった理由を会得することが出来た。
というのは目の前に大森林があらわれたので。
世の譬にも天生峠は蒼空に雨が降るという、人の話にも神代から杣が手を入れぬ森があると聞いたのに、今までは余り樹がなさ過ぎた。
今度は蛇のかわりに蟹が歩きそうで草鞋が冷えた。しばらくすると暗くなった、杉、松、榎と処々見分けが出来るばかりに遠い処から幽に日の光の射すあたりでは、土の色が皆黒い。中には光線が森を射通す工合であろう、青だの、赤だの、ひだが入って美しい処があった。