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こうやひじり

高野聖

泉 鏡花

「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页

青空文庫

(しょうがないねえ、)といいながら、かなぐるようにして、その細帯を解きかけた、片端が土へ引こうとするのを、掻取ってちょいと猶予う。

(ああ、ああ。)と濁った声を出して白痴が件のひょろりとした手を差向けたので、婦人は解いたのを渡してやると、風呂敷を寛げたような、他愛のない、力のない、膝の上へわがねて宝物を守護するようじゃ。

婦人は衣紋を抱き合せ、乳の下でおさえながら静に土間を出て馬の傍へつつと寄った。

私はただ呆気に取られて見ていると、爪立をして伸び上り、手をしなやかに空ざまにして、二三度鬣を撫でたが。

大きな鼻頭の正面にすっくりと立った。丈もすらすらと急に高くなったように見えた、婦人は目を据え、口を結び、眉を開いて恍惚となった有様、愛嬌も嬌態も、世話らしい打解けた風はとみに失せて、神か、魔かと思われる。

その時裏の山、向うの峰、左右前後にすくすくとあるのが、一ツ一ツ嘴を向け、頭を擡げて、この一落の別天地、親仁を下手に控え、馬に面して彳んだ月下の美女の姿を差覗くがごとく、陰々として深山の気が籠って来た。

生ぬるい風のような気勢がすると思うと、左の肩から片膚を脱いだが、右の手を脱して、前へ廻し、ふくらんだ胸のあたりで着ていたその単衣を円げて持ち、霞も絡わぬ姿になった。