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こうやひじり

高野聖

泉 鏡花

「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页

青空文庫

て、思わず涙が流れたのじゃ。

すると人の腹の中を読みかねるような婦人ではない、たちまち様子を悟ったかして、

(貴僧はほんとうにお優しい。)といって、得も謂われぬ色を目に湛えて、じっと見た。私も首を低れた、むこうでも差俯向く。

いや、行燈がまた薄暗くなって参ったようじゃが、恐らくこりゃ白痴のせいじゃて。

その時よ。

座が白けて、しばらく言葉が途絶えたうちに所在がないので、唄うたいの太夫、退屈をしたとみえて、顔の前の行燈を吸い込むような大欠伸をしたから。

身動きをしてな、

(寝ようちゃあ、寝ようちゃあ、)とよたよた体を持扱うわい。

(眠うなったのかい、もうお寝か。)といったが坐り直ってふと気がついたように四辺をした。戸外はあたかも真昼のよう、月の光は開け拡げた家の内へはらはらとさして、紫陽花の色も鮮麗に蒼かった。

(貴僧ももうお休みなさいますか。)

(はい、ご厄介にあいなりまする。)

(まあ、いま宿を寝かします、おゆっくりなさいましな。戸外へは近うござんすが、夏は広い方が結句宜うございましょう、私どもは納戸へ臥せりますから、貴僧はここへお広くお寛ぎがようござんす、ちょいと待って。