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こうやひじり
高野聖
泉 鏡花
「新小説 第五年第三巻」春陽堂、1900(明治33)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,025 字 · 71 页
そこではじめの内は我ともなく鐘の音の聞えるのを心頼みにして、今鳴るか、もう鳴るか、はて時刻はたっぷり経ったものをと、怪しんだが、やがて気が付いて、こういう処じゃ山寺どころではないと思うと、にわかに心細くなった。
その時は早や、夜がものに譬えると谷の底じゃ、白痴がだらしのない寐息も聞えなくなると、たちまち戸の外にものの気勢がしてきた。
獣の跫音のようで、さまで遠くの方から歩行いて来たのではないよう、猿も、蟇も、居る処と、気休めにまず考えたが、なかなかどうして。
しばらくすると今そやつが正面の戸に近いたなと思ったのが、羊の鳴声になる。
私はその方を枕にしていたのじゃから、つまり枕頭の戸外じゃな。しばらくすると、右手のかの紫陽花が咲いていたその花の下あたりで、鳥の羽ばたきする音。
むささびか知らぬがきッきッといって屋の棟へ、やがておよそ小山ほどあろうと気取られるのが胸を圧すほどに近いて来て、牛が鳴いた、遠くの彼方からひたひたと小刻に駈けて来るのは、二本足に草鞋を穿いた獣と思われた、いやさまざまにむらむらと家のぐるりを取巻いたようで、二十三十のものの鼻息、羽音、中には囁いているのがある。