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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

「やあ、これはひどい」

と、磊落に笑った。

そして、上五だけを書きかけていた短冊を下へ置いて、

「この源内にだって、親切を運ぶ女が、ひとりや半分ぐらい、ないことはありません。今の句は、ちとひど過ぎる」

と、味噌せんべいを一枚とって番茶を注ぎながら食べはじめた。

「そうですとも」

柳絮という新地の芸妓屋の主が、相槌を打った。

「お医者さんですからな、役得というものがありましょうさ。若い美人が診て貰いに来たら、そこで、ほら、あとは源内流に、いわずもがなのことになるんで……」

「は、は、は。なおいけない」

と源内は、みんなと一緒に、しばらく諧謔を交わしていたが、今の言葉の端から、かれはフイとお米の姿を思い浮かべていた。

実は今夜――かれがこの運座へ誘われて、九条村を出てこようとすると、その途中で、久しく姿を見なかった、川長のお米に出逢った。

女中も連れずに、九条の渡船のほとりを、しょんぼりと歩いてきた。

――先生、血を吐きました。

とお米は細い声でいった。そして、

――わたし、どうしても、まだ死にたくはありません。それで、またお薬をいただきたいと思って訪ねてきたんですけれど……。