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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

「こ、ここでいいんです」

と息をはずませた。

駕を降りてみると、源内すぐにその傍らに仆れている男の影が目についた。

「や、斬られている」

駕屋は、草鞋の底へ粘った血を、気味悪そうにすかしている。

「わしを呼び回しに来る前に、お前さんが血止めをしておいたかね」

「なんしろ、ここまで来ると、この人が仆れていたんで、どうしていいか分りませんでしたが、袖や帯を引っ裂いて、血の出る所だけはギリギリ縛っておきましたので」

「そうか。どれ」

と、源内は、もうよけいな事情などを聞いていなかった。両肌を脱いで帯のうしろへたくし上げ、抱きつくように寄って、血まみれな怪我人の傷を診にかかった。

「あ……オオ」

そのとたんに、胆を潰したような声を出したので、黙蛙堂もハッとしてどもりながら小腰をかがめ、

「ど、どうしました?」

と、覗きこむ。

「これは、わしの知っている者で、天満の万吉という男」

「えッ、ご存じの方ですって」

「先頃、木曾の旅先で、会ったばかりだが……どうしたということだ。ア……やっぱり阿波の」

思わず、ぶるッと、胴ぶるいが出そうになったが、口をつぐんで、懸命に手当てをはじめた。