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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

ああ遺憾至極」

思わず拳が膝にふるえる。

おのれ、今に見よと、あらぬ方に燿くかれの眼に情恨ふたいろの血の筋が走る。

ともあれ一刻も早く慰めてやりたいと、あわただしく湯漬を一椀かっこんで、宿の亭主に小舟を頼み、京橋口から猫間川をのぼって、小橋村黙蛙堂の家へ馳せつけた。

静かな茅葺屋根の家に、万吉は仰むけに寝かされていた。

裏に梨の花が咲いている反映のせいか、かれの皮膚もそれのように蒼白い。

「あまり本人の気を立ててはいけないと、源内様がいっておりました」と黙蛙堂が心配していう。

「…………」

皆、目でうなずくばかりだった。

お綱は涙をうるませていた。一月寺にいた時のことや、旅途中のことなどが、そんな中で、思い出される。

相談の上で、万吉の体は、やがて蒲団ぐるみ、そッと戸板へのせられた。そして、哀寂とした夕暮、その戸板を黙々として守る人々が桃谷のかれの家へ移って行った。

その晩、早速源内も来てくれた。

傷を洗い金創を巻きかえなどされて、幾分気がハッキリしてきたが、万吉は夜になってしきりに昂奮しだした。

だが、深い話はできないらしい。弦之丞もなるべくそれを避けていた。