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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
と――そこに。
龍耳老人の残して行った謎のような具足櫃が、人の疑目を待っていた。お綱もあやしさにうたれて見つめあった。
蓋はすぐに開いた。
軽いものだった。
のぞいてみると、意外、中には二ツの天蓋と、二掛けの掛絡と、鼠木綿の小袖や手甲までがふたり分?
いうまでもなく虚無僧の宗装、なんの意味でか、尺八までが添えてあった。
いや、まだ解せないものが、それに添えてある三衣袋の中にあった。阿州普化宗院派僧の印可を焼印した往来手形である。それは、身をつつんで遁れろといわんばかりな品である。ふたりは唖然として、対手の心を汲みかねた。
こうして、自分たちを徒労に空手で江戸へ帰そうという心か?
ならば、止刀を刺す機会があった。またことに右腕のつけ根をえらんだ狙撃も腑に落ちない。
でなければ、わざと恩を売って、隠密方の執着をにぶらそうとする策だろうか?
そう考えるのもあまりにうがち過ぎる。要するに老人の底意は不可解である。けれどまた弦之丞には、対手の意志などはどうであろうとよかった。そんなことは眼前の道草だ。問題の末だ。
目的はまだ達しられていない。
世阿弥がお綱に託した隠密遺書はどうしたろう? 一念、奪り返さずにはおけないのはあの血筆の一帖だ。