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なるとひちょう
鳴門秘帖(三)
吉川 英治
吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页
「頼む、頼む、もう少しの間」
と、それも口には出せず、目まぜで哀願しているのであった。
中西弥惣兵衛の考えでは、万一そこにいる者たちが違約をして、お綱を逃がすことがないとも限らぬ――という懸念があるので、そっと、麓から捕手の加勢を呼びあげて、十分に手を固め、目も放たずに見張っていた。
万吉は板ばさみの苦境に立った。
固い言質をとられている!
自身十手もちの目明しでありながら、十手にびくびくおびやかされなければならない万吉も、弦之丞がもつ苦しみとともに、これまた、人情が生んだ不思議な矛盾だ。
「どうぞ思いなおして、お千絵様のために、江戸へ帰って上げて下さいまし」
と、重ねて手をついて頼むお綱の手を、吾知らず、弦之丞はすくい取っていた。
「お前の心はよく分る!」
というように。
指へ痛くしびれてくるふるえが、お綱の涙をいっぺんに誘いかけた。だが、お綱は、ここでは決して泣き顔を見せまいとして、暴風のような激情と闘っていた。
「わしは幕府へ仕える気がすすまぬのだ。ゆるしてくれ、このわがままを。何と思いなおしても、江戸へ帰る気にはなれない拙者だ。で……それよりは、お前たち姉妹こそ」