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なるとひちょう

鳴門秘帖(三)

吉川 英治

吉川英治『鳴門秘帖(三)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:鳴門秘帖、鳴門秘帖、鳴門秘帖。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 261,216 字 · 521 页

青空文庫

「うれしい!」

「あたいの姉ちゃん! お綱姉ちゃん!」

ふたりは童心を躍らせた。

月光はむごく冴えつける。

お綱は、あさましい自分の影を大地に見た。

「お前は、なんていう数奇な因果を、ひとりであつめた人間だえ? ……」と他人になって、その影を、しみじみといたわり慰めてやりたかった。

そして――

「歩けッ」「いそぐんだ!」

と、口癖にどなる捕手に縄尻を突かれて、峠の坂路を、暗い沼へ辷ってゆくような気持で、ひと足ずつ、名残おしい人々からも遠ざかってゆくのであった。

が――より以上、切ない、胸苦しいかたまりは、むしろ、無情な成行きを、傍観的に見送っていなければならない、後の人々に残された。

お千絵は泣きはれた目を――鴻山は憮然とした腕ぐみを――また万吉は魂を抜かれたような哀別を――みな茫然と下りてゆく影へ送っていた。

それが、見えなくなった後も、喪心した人間のごとく、じっと立ちつくしている。夜虹のような天の川と秋風のささやきがその上にあった。

突然! 谷底へでも突き落とされたような悲鳴が、ヒイーッと山の静寂を破った。それは、ただの恐怖や単純な驚きとは思えぬ、強く胸を衝ってくる稚い者の絶叫だった。