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こうちょうのなげき

黄鳥の嘆き

甲賀 三郎

——二川家殺人事件

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,792 字 · 82 页

青空文庫

「は」

「十時頃だったね」

「は、十時に二三分過ぎていましたと思います。時計を見ますと、そんな時刻でしたから、鳥渡御様子を見に参りました」

「その前に誰も部屋に這入らなかった?」

「はい、御前さまの部屋へは、私以外の方は出入しないことになっております」

「然し、もしかしたら、誰かゞ――」

「私が起きましてからは、お部屋に注意いたしておりましたから、決してそんな筈はございません」

「では、前の晩は」

「九時半頃、寝室にお這入りになりました。そして、私が持って参りましたコップの水で、お薬をお呑みになりまして、『お寝み』と仰有いましたので、私はお部屋を出ました。それっきり今朝まで、私はお部屋に這入りませんでした」

「部屋は中から締りが出来るのかね」

「いゝえ、誰でも出入が出来ます」

「じゃ、昨夜十時すぎから今朝までのうち、誰でも出入出来る訳だね」

「はい――でもどなたも出入などなさらなかったと思います。本当に御前様がお自殺遊ばさるなんて、夢のようでございます」

千鶴はもう涙ぐんでいた。

「前の日、誰か客はなかったかね」

「どなたもお出になりませんでした」

「重武さんは、昨日より以前に、一番近く、いつ頃来られた?」