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こうちょうのなげき

黄鳥の嘆き

甲賀 三郎

——二川家殺人事件

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,792 字 · 82 页

青空文庫

初めの野村の考えでは、当日重武が何食わぬ顔をして、ブラリと遊びに来て、巧みにスリ替えて行ったのではないかと思ったが、重武は当日は愚か、暫く二川家に立寄っていないのだ。当日は別に客はなかったというし、家の者には疑いを掛けるようなものは全然見当らないのだ。

やはり自殺したのか。それとも過失死か?

遺書には断じて自殺などしないと書いてあったけれども、人間の頭はどんな事で狂うかも知れぬ。突発的の発作で、自殺しないとも限らぬ。他殺だと考えられる点が全然ないではないか。

過失死とすると――そうだ、太田医師の投薬の誤りかも知れない。野村はぎょっとした。医師が自分の過失を隠す。之はあり得る事だ。

野村は口実を作って、二川邸を出た。そして、そこから余り遠くない太田医院に急いだ。

太田医師というのは、丸顔のでっぷりした体格の、信頼出来そうなタイプの人だった。医院も大きくて堂々としていた。

「可成ひどい不眠症のようでして」と、太田医師は極めて気軽に話して呉れるのだった。「普通の人ならどうかと思われる位の量でしたが、あの方なら二回分一時に呑んでも大丈夫です。何しろ、ひどい神経衰弱ですから、危いと思って、二回分しか渡さず、それだけの用心をして置いたのです。