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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「なるほど、明白にディグスビイの告白だが、これほど怖ろしい毒念があるだろうか」検事は思いなし声を慄わせて、法水を見た。「たしかに文中にある尻軽娘と云うのは、テレーズのことを指して云うのだろう。すると、テレーズ・算哲・ディグスビイ――とこの三角恋愛関係の帰結は、当然、カインの輩の中に鎖じ込められ――の一句で瞭然たるものになってしまう。そして、ディグスビイはまず、この館に難問を提出し、そうしてから、その錯綜の結び目の中で、嘲笑っているのだ」と検事は神経的に指を絡み合わせて、天井をふり仰いだ。「ああ、その次は、凶鐘にて人形を喚び覚せ――じゃないか。ねえ法水君、ディグスビイという不可解な男は、この館の東洋人どもが、ゴロゴロ地獄へ転がり込んで行く光景さえ予知していたのだよ。つまり、この事件の生因は、遠く四十年前にあったのだ。すでにあの男は、その時事件の役割を端役までも定めていたんだぜ」

ディグスビイの意志が怖ろしい呪詛であることは、彼がそれを記すに、ホルバインの「死の舞踏」を用いただけでも明らかであるが、それにまして怖ろしく思われたのは、彼が執拗にも、数段の秘密記法を用意していることだった。