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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
ところが第三日になると、夜来の雨は暁方に及んで大降りとなり、ついで大霧をまき起した。そして立山の方から、黒部谷を渡って、夕立が再三おそいきたった。私はその合間を見ては、仕事を進めたが、枯枝は俄然、見ちがえるばかり動勢を変えて、みな上向きになり、とくに尖端を空ざまに反転しているのである。眼をみはった私は、前年再度の白檜の例が胸によみがえって、さらに感を新たにし、かつ深めたのであった。そして翌日も同様な日がつづき、しとどにぬれた老松は、枯枝も葉を持つ古幹も、枝の組み合わせを寛ろげて、生き生きと木末を上方にもたげていた。ところで、その後天候が回復するにつれ、またもとの形にかえって行ったのである。
天候の変化にともなって、眼前に演ぜられる、これら枯枝の動勢の変転に見入っていると、今さらのごとく私は、不思議な思いに打たれると共に、多少合点の行くような気もして来た。前から考えていた以上に、空中地上の湿気、水分が、この枯枝の動きの、おもな原因として働いているようだ。たしかに、物は乾けば縮み、湿れば延びる。だが、この場合、単にそうした物理的現象にすぎぬであろうか。