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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
落倉にて
落倉小屋は客も無く、電燈などより、朧ろな新月と星とが無上にありがたい。
落倉にて
ここにつづいて、栂池、乗鞍までの十数日、まったく日々好日。晴れるも降るも、微妙な変化の美しい天地に囲まれて、激しく又楽しく仕事した。暦はすでに三月に入り、一日まず大快晴。前晩は飛雪のひまに半月がのぞいただけだが、早朝窓をうかがうと、明けやらぬ空に白馬三山が、劃然と現われ、六時二十分には峯々の雪朝陽を吸って、紅梅色に匂いはじめる。私のモティフは、白樺疎らな傾斜の奥に、白馬三山が、山越えの弥陀像そのまま、半身をのぞかす辺にある。
日昇って雪山は光輝を増し、天空濃藍に凝って僅かに一抹の巻雲を浮べ、白樺の梢紫をおびて色めく。午を過ぎると烟霞が山をかすめ、空を濁し、山は大きな影に浸って暮れて行く。上弦の月半天に大暈をおび、鑓、杓子おぼろに沈む。月の暈は、土地では「月の上りに日の下り」と言って、これが降る前兆とされるが、――今夜は「月の下り」だから降らぬ、とYが言う。
果して翌日も快晴。日射強く、雪の上に居て暑いくらいだ。雪面融け、スッペンジョ(藁靴の方言)を通して足が湿る。鳥声遠近に聞え、四十雀身辺に遊ぶ。