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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
二 山荒し
岳かんばの梢から、あっけにとられて、このようすを見ていた目細君が、やっとわれにかえって、例の『ヂェニチュリ、ヂェニチュリ……』の曲をうたいだすと、画家は顔を輝かせて、それに聞きほれていたが、そのうち、葉越しに動く彼の姿が眼に留ったか、双眼鏡でしつこくあとをつけ廻すので、「わたしも何だか薄気味わるくなって、それきり逃げ出してしまったのサ……云々」と言うのだった。
――あの人にちがいない、ありそうな事だ。さきほどの画家の態度を思いあわせて、俺は覚えずほおえみながら、目細君のほの白い眉に相槌を打った。
二 山荒し
こうしたいきさつで、俺は大分、人間というものを見直すことができた。――ああよかった、やっぱりそんなに悪い者ばかりではなかったか……。そう考えると、俺は近来にない、ほのぼのとした心嬉しさを、反芻して味わうのだった。
それというのが、この間も、岩雲雀さんの話では、頂上附近の俺たちの仲間が、盆栽とりか何かの手で、幾株となく根こぎにされ、下界へかついで行かれたそうで、中には大怪我をしたままそこらに棄てられて、虫の息になっている無慚な姿も見かけたとか。