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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
本文もその中の一篇。
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二十畳からあろうというがらん堂、その片隅に私は座を構えていた。宅から持参の小さな行火へ、ここの堅い蒲団を、何枚も重ねかけ、スコッチの服にどてら、膝に毛布を巻いて。ここは七面山奥之院の楼上である。雨戸はいつも大かた閉てきりで、この東南の一隅だけが、側の高窓の障子で、わずかに明るい。四尺に二尺ほどの画布をのせた画架を、窓へ斜めに。後ろは浅い床の板壁に、ひげ題目の古びた掛け軸。座辺には汚ない角火鉢、はげちょろけの経机、そこらに旅鞄やら、絵の道具やら、手廻りの雑品やら、散りじり。
天井はなくて、屋根が穴だらけなら、頭上の破風も、鬼が抜けたか、羽目は吹っ飛んで、居ながら青空や月星を仰げれば、寒風も雨雪も吹込み放題。眼を覚ますと、枕元は粉雪の吹き溜り、という朝もある。世にも風流千万の住みか。ましてや、天晴れて、いったん窓を払おうなら、輝く不二の高根が、天半に鶴翼を張って浮かぼう! 寒さのみかわ、身振るいを禁じ得ぬ偉観である。直線距離およそ三十粁、中をさえぎる何物とて無く、有るはただ、冴え切った一大空間。