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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
一様に、足を痛めぬよう、川へ陥ちいらぬよう、ひたすら脚もとに気を配っている、いじらしい人々!君は時に行き違ってから、思わず彼らを振り返って見るだろう。すると彼らもちょうど、君をふり向いて見ているところにちがいない。しかし、お互いに永くは見られない。岨道は崖から崖へ、はげしく屈曲しているから……。
時には又、温泉へ荷を運ぶ川下の村人にも会うだろう。これはいつも声高に話しながら行くので、すぐわかる。彼らの心は、足元よりもどこか少し別な処にあるらしく、余裕のある様子でやってゆく。だがこの峡谷の高岨道は、馴れた者でもむやみに安心のできる質のものでない。河原というものが無くて、青い水が足の底までえぐれこんで来ている、そんな処が多いのだ。広く谷筋の上下では、各所で命を落した猟師、漁夫、杣、荷運び、山林の役人、登山者など数多く、話や地名、記念碑などに、残っているが(谷などに人名を冠したのは、大がいそれ)、一と足を誤まって、道からじかに谷水に呑まれる村人さえ珍らしくないそうだ。この間も、六里の道を日帰りするため、夜なかから提燈をたよりに上ってきた女衆が、途中気づかぬ間に一人減っていた、居眠りでもして、川へ落ちたものらしい――そんな話も聞いた。