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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
山人の命名は万事、直截、端的で、時には興ざめと思われる、曲のない、味のないのもないではないが、またこのような傑作もある。
この行は、本来もっと南まで、出来れば平までぬけたい考えであったが、途中思いの外の険難つづきに手間どり、その上、立山の長次郎などが加わったため、助七にして見れば、繩張りを冐されるような気がしたかもしれず、かたがた、食料も残り少なくなったし、天候も先の見込みが立たず、大事をとって結局、仙人谷の出合いまでで打ち切ることになり、あとは再挙を期することとした。
未知の上流を見返りつつ、仙人谷を上り、立山へ出たのだが、途中、仙人ノ湯は、前年入浴の跡をしのんで、眺めただけですぎた。あの時の、寝棺のような岩沙の湯槽の味は、忘れられない。あおのけに身をのばして、山雲を眺めた心持ちは、昨日のように鮮かである。あの年は、硫黄沢でも、天然の湯壺をいくつか見ながら、時間の都合から、惜しくも見過した。思いは上流に残りながらも、峯へ這いあがって、仙人ノ池から朝の劔、立山を仰いだ時は、また晴れやかさに眼が眩むほどの美しさを感じた。
(昭和十四年七月「山と渓谷」