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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
すなわち、槍ガ岳の西裏に当り、蒲田川左俣の奥に横たわる、小高原がそれだ。双六から笠への縦走路、その途上の一峯、弓折から見おろすと、東方へ派出する側尾根が、南へ折れるあたり、ゆるやかな緑の背に、幾つもの池を点々とちりばめた、いかにも神仙譚的な、その風姿を望見することが出来る。ただし谷間の霧のひと刷毛にも、それは夢のように、かき消されてしまうだろう。
ここの事を、私が初めて聞いたのは、一昨三十一年八月の末、双六小屋の炉ばたで主じ小池義清さんの弟で猟師の義蔵さんが、――面白い所がある、と話してくれた時だ。先年新道を作る際、甥の義人君と二人、偶然迷い込んだことがあるだけで、地元の人もだれ一人知らぬという。そして、池がたくさんあって、それに大槍小槍がうつる……など、大いに私を刺激する話ばかりだ。私はすぐにも行って見たいと思ったが、どっこい、そうは行かぬ、東京で山の話をする約束の日が迫っていて、まったく余裕がない。私は遠望に止めて、楽しみを胸に、帰京した。
そして、昨年夏は双六小屋に滞在して、黒部の源流などに遊び、八月下旬に待望のこの処女地を訪ねた。義蔵さん義人君たちの案内で、弓折から下って行ったが、路はまったく無い。