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あるはいまつのどくはく

ある偃松の独白

中村 清太郎

線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁

青空文庫

流れの末には、黒部の大深谷を隔てて、滝倉から劔、立山の列嶂壁が、ずらりと立ち並ぶ。天晴れて谷の空気が透徹する時には、その雪は茜を帯びた眩光を放って、岩のあくどい赭色も、濃い淡い草木の緑も、みな冴えた天空を映して、菫紫の濃密な影を含み、軋るが如き厳線をもって、空を限り近山を截り、峯頂といわず胸壁といわず、あるいは切っそぐような折線に、あるいは弾力ある一種抛物線ようの曲線に、嵩にかかって尖っている。

さらにまた、底しれぬ絶谷の吐く息が、むらむらと湧き昇る時には、山は一歩退いて、縹いろの冷漿を浴びたごとくに陰り、しかも時おり、露を結んだ錬鉄の閃めきを射出す。

時に一とむらの雲が、峯頭から山腹にまつわると見るや、たちまちにして山は、乱雲の一大塊と化してしまう。その蝕まれたほどの間隙から、ひときわ鮮かな雪渓が出没して、ほしいままに搦みつく雲を伐るから、山はほとんど常の形骸をかなぐり捨て、無辺際に奔逸し伸展しようとして、物凄まじい動揺を現出する。

雲収まって、深く山頭に垂れることもある。暗く重々しい長大な横雲が、ほぼ同高度に大山脈を半截してじっと身じろぎもしない。