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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
昼間とはまるで違って、妖しげにも不思議な景色だ。どうしても、神仙譚中の世界に住するかの思いを禁め得なくなる。
ことに闇の夜更けなど、一人静かに湯に沈んでいると、瀬音は時に、おびやかすような高調子を出す。大地のシンの方から響けるかと思う、それは踵から頭へ抜ける。一度襲われた心には、音はどこまで高まって行くのか、知れない気がする。湧き出る湯のささやきまでが、どうやら強いて調子を抑えているのではないか、とも疑われる。何かしら身うちから忍び出て、闇の中を彷徨するものがある。たちまち谷水が増え、湯も溢れて、今にもあれ、この岩壁を蔽いかぶせ、暗い谷間にみなぎって、何もかも一切が、埋没され押流されてしまうのではあるまいか……そんなさらわれたような気持ちにもなる。それでいて、もとから私はこの深夜の、人気もない湧泉というものに、妙に心を引かれるくせがあって、しばしば三更、四更の峡底に、ひとりとぼとぼと降りて行ったものだ。
月夜の温泉の祭りの挿図
浴客は大がいこの近在の人たちだから、八月半ば、村々の盆休みには、かえって一時少なくなるが、その前後がいちばん温泉のにぎわう時季だ。