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あるはいまつのどくはく
ある偃松の独白
中村 清太郎
線上閱讀中村 清太郎《ある偃松の独白(あるはいまつのどくはく)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 132,905 字 · 262 頁
まったく、雌魚の中には、尾がまるで骨の出るほどに擦り切れて、涙ぐまるるまで痛々しいのがある。それを追うて来る雄魚はまた、口ばしが、杓子かへらの形に、拡大発達しているのが目につく。おそらくこれは、荒い餌を捕食するためでもあろうか。いずれにしても、皆そぞろに身ぶるいの出るのを止め得ない見ものだ。この激しい急谷と、このさかんな魚族――そこに、想像を絶した、あの環境と、あの本能との相関、はつらつたる生の躍動! これらの獲ものは、一部分は温泉で金に代えられる。生きているのを刺身に作ったものなら、淡紅の肉はゴリゴリして、さえた甘味が舌に徹する。ただし寄生虫を宿しているから、生食はかなり冐険にちがいない。
銃を肩にした猟師も入り込んでくる。犬の吠え立てる声が、高く空谷にこだまする。獣どもは、今や大かた、食も満ち足り、肥え太って、次第に山の高みから裾の方へと、降りて来たらしい。そのはずだ、山上の柔草はとうに霜枯れて、食べられなくなってしまったろう。上流にのぞく端山の一角さえ、既にいくたびか霜に見舞われたと見え、昨今だいぶ色づいてきたのだから。
洞然たる秋晴の朝、対岸しも手の八右衛門谷の方角に当って、軽い銃音が二、三度ひびくのを聞いた。